身体じゅう音楽で満ちてしまう

 いまや『東京タワー』といえばリリー・フランキー氏(『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』)ですが、私にとっては江國香織さん(『東京タワー』)です。どちらも映画化されたほど有名な作品なので、そういえば誰もが「あぁ、江國さんの小説にもあったわね」という気がするけれども。『東京タワー』は江國作品の中でもお気に入りの部類には入らないのですが、単行本のカバーと「恋はするものじゃなく、おちるものだ」という帯が気に入ってます。
 先日の演奏会に大学オケの親友が聴きに来てくれたのですが(史学科のクラリネット吹き。お互い江國さん好き)、終わった後くれたメールに「演奏会に行く度に、江國さんの『東京タワー』に出てくる一節、音楽で身体を満たされるだっけな、を思い出すけど、今夜はそんな感じです」と書いてありました。その友だちらしい、素敵な褒め言葉だと思いました。
 大学生の頃、自分も友だちも本を読むのが好きだったので(そしてみんな文学部だったので)、会話の中にしばしば小説の引用がされていました。・・・そんなキザな感じではなくですよ(笑)。友だちの演奏会の感想みたいに、たとえの一種として使われていました。
 音楽で身体を満たされるという感覚は私もよく陥ります。もちろんクラシックに限らず、KinKiとかのコンサートでもあるし、ときにはCDでなることもあります。しばらくの間頭がぼぅっとして、他の音楽を聴きたくなくなる感じ。そういうときは落ち着くまで、音楽をかけずに過ごします。TVもあまり見ない。それはかなり非日常的な感覚ですが、とても幸せな感覚でもあります。だから友だちがそういってくれてことはとても嬉しかったです。
 そういえば、そういう表現を他の作品でも見かけたことがあるなぁ。『ホリー・ガーデン (新潮文庫)』という小説で、主人公の静枝がストラビンスキーの演奏会に行った後。江國さん自身がピアノを弾かれるようなので、小説にもしばしばクラシック音楽が出てきます。小説は文字で成り立ってますが、やっぱり絵も見えるし、音も聴こえるし、香りも感じますよね。